親心のエコシステムが無償化で廃園に。

衆議院調査局が年に一度発行する「RESEARCH BUREAU 論究 第16号 2019.12」に提言論文を依頼され、昨年末に発刊されました。衆議院のホームページで読むことができます。ぜひご一読ください。「衆議院、論究、松居和」で検索しても出てきます。http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/63da430ca66f6757492574180016fd6e/b3bb20d8d63d8d67492584d9002f58a7/$FILE/2019ron16.pdf

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「公立幼稚園」は私が一番好きな形でした。

それが今回の無償化で入園希望者が十分の一になっている。選択肢のある自治体では、一気に廃園に追い込まれている。たった三ヶ月で、無償化という平等が、自然に親が育ち、絆が育つ仕組を壊していくのです。

数年前にこんな文章を書いたのです。

「市長が壊す、再生不能な親心のエコシステム」

長年地域に根付き、思い出や絆を作ってきた「公立幼稚園」をなくそうとする市長がいます。反対する母親たちから相談にのってほしいと言われ、広島で講演したあと、神戸で会いました。(神戸の市長の話ではありません。)

「公立幼稚園は親にサービスしないから親が育ちます。助け合わなくてはならないので、絆も育つ。もともと二年保育が多いし、この辺りでは20年前、私立幼稚園の経営を邪魔してはいけないという主旨で、1年保育がありましたよ」と私は、始めに言いました。親たちの民営化反対の意図がどこにあるのか、探ってみたのです。すみません。

公立幼稚園は送迎バスもない,給食も、預かり保育もない、保育料は安いのですが、親たちは助け合うしかない、補いあうしかない。「いいですよねえ」と言うと、目を輝かせて、「そうなんです、何もしてくれないんです。しかも、行事や役員など色々押し付けられるんです。そういう園が、私たちは好きなんです。心が一つになるんです」とお母さんたち。ああ、この人たちはわかっている。ちゃんと育ってる。こんな幼稚園は地域の宝。黙っていても地域に絆を生み出します。

こういう園の運動会は、部族的で、村社会的で、賑やかで、親身で、公立ですから障害を持っている園児がいたりして、そうすると、みんなで涙を流して応援する。こういう園は、一度失ったら再生不可能な親心のビオトープ、エコシステム

(日本中すべての幼稚園・保育園がこんな感じだったら、私たちはもう一度、あの「逝きしの世の面影」渡辺京二著の第十章~子どもの楽園~に出て来る、150年前に欧米人が書き残した「パラダイス」を体験できるのでしょう。)

それを民営化、こども園化して市長が壊そうとする。目先の選挙のことだけ考えているのでしょうか。

「市長は、こども園の方が長く預けられるし、無料になるんだ、と言うんです。私達はそんなこと望んでいないのに」と静かに怒る母親たち。「こども園だと無料で、幼稚園だと有料になるんですか?」と私に聴く。

そんなことはないですね、そこまで嘘を言って民営化を進めたがるには何か別に理由があるはずです、と答える。聴けば公立幼稚園の職員はすでに6割が非正規雇用化されている。財政も特別悪そうではない。地方の場合、こういう時は、背後に利権がらみの癒着があったりする。そうなると「子どもの最善の利益」などという言葉はまったく通用しない。

ほとんどの自治体で政府の施策によって保育が危険な状況にさらされている中で、公立幼稚園が十園まとまって親を鍛えながら,これだけ親に支持されているのは奇跡かもしれない、というようなお話しをしました。(後略)

この話から数年経ったいま、「無償化」によって、あっけなく廃園になっていく公立幼稚園が全国にあるのです。わかっていてやった施策なのだろうか。それともただ知らないだけなのか。

同じ値段(無償)なら、よりサービスしてもらったほうがいい、という損得勘定は、当然だと思う。しかし、子どもを優先して考えれば、また違った方法があったはずなのです。

あまりに乱暴な保育施策が続いているのです。

以下は、前述「論究」の提言論文を読んだ園長先生からのメールです。

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松居和先生

新年おめでとうございます。

論文をお送りいただきありがとうございました。一気に読ませてもらいました。まったく同感です。

今の保育施策には子どもの視点が全く欠けています。

私はY市の児童福祉審議会の委員をやっていますが、その中で議論されるのは数合わせばかりです。このような施策を、と提案しても、計画は出来るものを載せるのが計画なので、出来るかどうかわからないものは載せられないと突っぱねられます。

夢やヴィジョン、ましてや哲学などは必要ないようです。

保育士不足も切羽詰まってきています。

実は私の学園でも企業主導型保育事業というやくざなものを始めてしまいましたが、内閣府や児童育成協会は実に情けないものです。企業主導型は考え方としては決して悪いばかりではないのですが、おっしゃる通り今はくそも味噌も一緒の状態です。そして、そもそもその桶が腐っています。

児童育成協会の監査員募集でこんなのが出ていました、

https://next.rikunabi.com/end_detail/cmi0296172008/nx1_rq0018240168/

「指導監査要領に沿いながら適切なチェックをする仕事なので、ルールさえ覚えれば業務はスムーズに行えます。」

素人が保育園の監査なんでできるわけがないでしょう!

こんなのが来て指導するわけです。困ったものです。

だいぶ前から愛着障害が話題になってきましたが、やはり母親と2人でいる経験を十分積まないと子どもはよく育っていきません。人間は動物であることをやめようとしているのでしょうか?

かのウイニコットも言っています。「二人でいるから一人になれる」と。やっぱりそこが大切かなと思います。

保育参加、ぜひやろうと思いました。

機会があったらぜひうちの園に来て話を聞かせてください。

今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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(講演依頼は、matsuikazu6@gmail.comまでどうぞ。どこへでも行きます。)