「家族の形」が残っていなければ、幸福の伝承は一部の人間だけに許される特権になってしまう

社会の根底に伝統的な「家族の形」がなければ、幸福の伝承は一部の人間だけに許される特権になってしまう

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子どもを産み、育てるという人間社会の基盤を保育・教育という仕組みに任せようとするほど伝統的な家庭観(Traditional Family Vallue)は崩れてゆく。すると、義務教育が成り立たなくなる。それが数字で明らかになった1984年、米国政府は教育の問題を「国家の存続に関わる緊急かつ最重要問題」と定義し一年間論戦が交わされました。義務教育が普及し親の世代に50%だった高校の卒業率が72%になっていたにも拘わらず、子ども達の平均的学力が親のそれを下回った。しかもその年、高卒の非識字率が20%を越えたのです。http://kazu-matsui.jp/diary2/?p=1064

それから34年。家庭崩壊が進んだアメリカで、いま「ワーキングマザーの約85%が家で子育てに専念したいと答え」ている。(東洋経済Online,会社人生にNO!米国、専業主婦ブームの真相:共働き大国の、驚くべき実態:https://toyokeizai.net/articles/-/32455)

しかし、一度家族の「形」が大きく崩れてしまった欧米先進国社会は、こうした母親たちの希望に応えられる社会構造ではすでになくなっています。

記事の中でハーバード大卒の女性の著者が言う、母親たちが「原点に戻りたがっている」という発言は、欧米ほど家庭観や、保育、教育といった子育てに関連する仕組みが壊れていない、言い換えればいまだに欧米社会を目標にしがちな日本に対する、貴重な警告・アドバイスだと思います。欧米の後を追ってはいけない。

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未婚の母親から生まれる確率が4割、子どもが18歳になるまでに4割の親が離婚するアメリカで、実の両親が家族という形で子どもを育てている確率は半数を切っています。夫婦の価値観の共有、「役割分担を支える信仰にも似た信頼関係」、夫の収入の額などを考慮すれば、専業主婦になることができる環境下にある女性は3割以下でしょう。「子育て」の意味、価値に気づいても、多くの母親が専業主婦という形で家庭には戻れない社会構造になっています。

「自立」を目指せば、信頼関係を生み出す「役割分担」が成り立たない。信頼関係が育たないと、一層「自立」を目指さざるを得ない。先進国社会に共通した負のスパイラルです。その中で弱者がその存在意義を失っていきます。

本来、人間は自立できない。それを目指してはいけない。乳児という絶対的弱者で生まれ、老人という弱者になることをゴールとする人生の仕組みを考えれば明らかです。「助け合うこと」「育ち合うこと」が人間社会の中心だった。

欧米で、特に高学歴・高収入の勝ち組の中から伝統的家庭観の見直しが始まっています。一方で、格差社会で取り残された一般層は、構造上いつまでもそこから抜け出すことができない。そのイライラや閉塞感が、児童虐待やDV、犯罪やテロ、間接的に言えばトランプ支持の現象にも現れているのだと思います。トランプ氏があれだけ女性蔑視や、異教徒、異人種に対する偏見をあからさまに発言しても大統領に当選し、いまだに支持率が4割近くある。

モラル・秩序に基づかない、「現状に対する不満・不信感」が民主主義を左右し、振り回し始めている。(ほとんどの)親が親らしい、(ほとんどの)幼児たちが安心して日々を過ごせる、それが民主主義以前の人間が社会を形成するための絶対条件だったのです。

フランスで、燃料税の引き上げという政府の一つの施策が全国的な略奪、放火、暴動にまでエスカレートする。アメリカで、地震やハリケーンなどの天災に見舞われる度に略奪が起こる。底辺から抜けられず、しかも「自分の人生に納得が行く方法」(子育て)を奪われた、または見失った階層の怒りが、そこに表れている気がしてなりません。

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幸福につながる「価値観」が、いつか「経済競争に勝つこと」から「子育て」に戻ろうとした時、それを支えるだけの「家庭の形」「家族観」が残っていなければ、家庭を基盤とする幸福とその伝承は一部の人間だけに許される特権になってしまう。

そうなった社会がどれほど殺伐としてくるか。欧米における犯罪率、麻薬の汚染率などを日本と比較すればわかるはず。日本は他の道を選択してほしい。幼児を中心に考える、本来の伝統に戻ってほしい。http://kazu-matsui.jp/diary2/?p=1047

いま、日本で生涯一度も結婚しない男たちが3割になろうとしている。引きこもりの平均年齢が34歳。この国が、政府によって「欧米型」経済競争社会に向かわされている兆候だと思います。家庭という形に生きる動機を見出そうとしない男たち、「生き方」を見失った男たちがそこに見えるのです。

(だから、経済を維持するために外国人労働者を入れる。それでは、本当の解決にはならない。移民で成り立っているアメリカで、いまだに人種の問題で暴動が起き、大統領でさえ、差別意識が払拭できていないのです。)

「子はかすがい」ではなく、「子育てが、人間社会のかすがい」、生きる動機だった。

 

(政府が施策として、012歳児を数値目標を設定して保育園で預かろうとする。そうすれば女性が輝く、ヒラリー・クリントンがエールを送ってくれました、と総理大臣が国会で言い、「輝く」の定義が不明のまま、目標を達成するために規制緩和や市場原理が導入され、保育の質が下げられていった。http://kazu-matsui.jp/diary2/?p=2643

そして、親たちの「012歳は保育園に任せておけばいい」という意識の広がりと、保育の質の低下が学校教育を一気に疲弊させている。財源と人手不足を補うための「支援員」たちが、画一的教育が不可能になり始めている教育現場を見て驚くのです。ネット上に募集の告知が溢れる「支援員」という名の様々な規制緩和、誤魔化しに、子どもたちが求める「人間性」の代わりはできない。やがて財源も人材も足りなくなる。子どもたちの不安感と、社会に対する不信は「支援員」では補えない。)

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幼児をみんなで眺める。施策は、そこから再出発してほしい。

幼児たちの「頼り切って、信じ切って、幸せそう」という生き方に共鳴し、彼らを守るための「役割分担」を親心という次元から整えていく。幼児たちの、私たちを育てる「役割」を思い出さない限り、社会に自浄作用、自然治癒力は働かない。損得を超えた、信仰にも似た役割分担が否定される時、人間社会は後戻りができなくなるのです。

この国は、後戻りが可能な唯一の先進国だと思います。この国が示す道筋が、いつか人類の進化に影響を及ぼすような気がしてなりません。

(より良い生活(Better Life)の幻想 http://kazu-matsui.jp/diary2/?p=1079

(講演依頼はmatsuikazu6@gmail.com  またはファックスで03-3331-7782までどうぞ。)

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