政治家は、もう市場原理から子供たちを守ってはくれません

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「今、新たに開園しようという事業者を、私は信用しない」という端的なツイートがきました。(@kazu_matsuiに。)

ほぼ同感です。(自治体が募集し、サービス業的な保育業者が参入し開園するくらいなら、あの法人、あの理事長に手を上げてほしいな、と思うことがあります。しかし、最近の保育園増設は「いい法人」が手を上げても選ばれないことが多々ある。市区町村に任せているだけに、どういう基準なのか、とても不透明です。)

親の意識の急激な変化が原因なのか、1歳児で噛みつく、3、4、5歳でもいわゆるグレーゾーンの子が急に増えています。いい保育をしようとしても加配が追いつかない。おいつかない加配を、0、1歳に回さないと市民の要求においつかない。地方に講演に行っても、状況はほぼ同じです。それは、保育関係者ならみなが知っていることです。

それでも、政府が経済活性化の対策費として出す予算で、とりあえず儲けようという人たちが、「待機児童をなくせ」「一億総活躍」「保育は成長産業」という掛け声に便乗しなり振り構わず参入してきます。

ほんの一例ですが、以下のような「保育園が誰にでもできるマニュアル」がネットで宣伝され、起業家予備軍を誘っているのです。

ーーーーーー以下ネット上の文章ですーーーーーーーー

『独立起業を誰にでも』

 

〜独立起業を支えるマニュアルです。保育園開業は今ビッグチャンスを迎えています。少ない資本で安定した利益をもたらす保育園開業マニュアルです。コンサルティング会社の100分の1以下の費用でノウハウが全て手に入ります。〜

「保育園開業・集客完全マニュアル」

*独立・起業を考えているが、何から、どう始めたらよいかわからない。

*自己資金がなくてもできる起業を探したい。

*自分ひとりで始めるのは不安がいっぱいだ。

*安定した収入が入るビジネスにはどんなものがあるのかわからない。

*フランチャイズは失敗してもFC料金を払わなくてはならないのが不安だ。

起業をしたいと思ったときがチャンスです。ネットビジネスも儲かるのでしょうが、やはり安定した収入は確保したいものです。しかし、単に「起業」と言っても、何をどう始めたらよいのか、どんな手順を踏んで、どんな書類を用意しなければならないのか、わからない方がほとんどです。

そこで、「保育園開業・集客完全マニュアル」をあたなにお届けいたします!

ーーーーーーーーーーー(ここから私の文章です)

政府による保育士資格取得の規制緩和もひどい話ですが、数万円の「集客マニュアル」を買えば保育園が「開業」できると宣伝されるような制度にしてしまった規制緩和はもっと乱暴です。

しかも「自己資金がなくてもできる起業を探している人、何から、どう始めたらよいかわからない人、自分ひとりで始めるのは不安がいっぱいの人」には、保育園経営がお薦め、安定した収入になる、というのです。

「フランチャイズは失敗してもFC料金を払わなくてはならないのが不安」という指摘は、よく考えれば、それだけで政府や行政が問題にしなければいけない発言です。保育園経営に失敗して痛い思いをした人、自己資金を無くした人が、すでにたくさん居るということ。こういうことが起きないように、ルールを作ったり規制をかけたりしなければいけない。幼児という絶対的弱者を守るために。

本来子どもを守らなければいけない政府が進めている急速な規制緩和と市場原理、それらが創り出したコンサルビジネスやマニュアル販売ビジネスの先に、園児たち、幼児たち、保育士たちが必ずいる。経営に失敗した保育園にも通っていた子どもたち、保育士たちがいた。

政治家は、もう市場原理から子供たちを守ってはくれない。親たちが意識をしっかり持って、いま子どもと自分の人生に何が大切か、何が危ないのか、感性を働かせ考えてほしいと思います。

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そして、現場からこんなツイートが来ました。

『トイレから出てこなくなってしまった実習生を引き取りに来た母親の「保育士だったらなんとかなると思ってたのに」という一言は忘れられないけれど、一緒に来た担当講師の「なんとか二週間頑張れば資格とれたんですけどね」という言い草には腹立ちより呆れ。その講師はその養成校の卒業生と聞いて納得。』

養成校がすでに市場原理に取り込まれている。「資格」を与えることがビジネスになり、それが「養成」の中心になっている。「保育」を教えるはずの担当講師の意識の中に、「幼児の日々」が存在しなくなっている。

教える人たちの意識が麻痺しているから、育てる人たちの意識も麻痺してくる。教育界がその魂を市場原理に売ってしまえば、それは、政治家やマスコミの思考にも確実に影響していると思います。

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先日、2歳の子どもに何か一生懸命説明している母親を見ました。「2歳の子どもに説明する」、こんな素晴らしい瞬間があるんだ、と思いました。

真剣で、なにかとても広い、宇宙のようなものを説明している感じがしたのです。こういう時間をもう一度持てるのだろうかと考え、遠くを眺めました。

幼児といると、自分が「風景」の中にいることが感じられて、自分の「立場」がよくわかります。その絶対的「立場」に安心して、暮らせばいいのだと思います。(インドでの風景) http://kazumatsui.com/sakthi.html